『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』覚書、歴代最高の映画スターに寄せて

トム・クルーズが走る。車にバイクにヘリコプターに乗る。そのとき一瞬一瞬が映画史になる。かつてはクリント・イーストウッドのいる場所が映画史だった。今2018年はトム・クルーズがその役割を担っている。


前作『ローグ・ネイション』はスパイ・アクションとして一つの到達点を示した傑作だった。『知りすぎていた男』『北北西に進路を取れ』などのヒッチコック映画へのオマージュ、その豊潤さを意識した映像、イマジネーション溢れる舞台設定、その中で繰り広げられる鍛え抜かれた俳優たち自身による生身のアクション、知的駆け引きで敵を騙し勝つクライマックス。

あまりの面白さに、この作品がこれからも今後もMIシリーズの最高傑作になるだろう、と今作を観る前は信じ込んでいた。愚かだった。正面きって堂々と、力勝負で超えてきたのだ。


撮影中にトム・クルーズが足を骨折した、というニュースを聞いたときはやはり年齢による衰えは隠せないな、と思っていたが、『フォールアウト』を観た後では1回の骨折で済んだのが奇跡としか思えない。バイク、車、ヘリコプターなど乗り物はもちろんビルからビルのジャンプ、窓からの落下、絶壁での格闘などタイトルの「落下」のモチーフが幾度も繰り返され、まさにヒッチコック『めまい』の高所恐怖症的スリルを観客の心理に植えつける。


オープニングから何度も悪夢のシークエンスが繰り返されるのも、非常に『めまい』的だ。今作はダブル・ヒロインと言える構成をとっているが、そのイーサンにとって非常に重要な2人の顔がとても似ているのも『めまい』を意識させ、ストーリーを味わい深くしているのがとても面白い。


しかし今作のイーサン・ハント=トム・クルーズの体技はどうだ。ジャッキー・チェンを飛び越え、バスター・キートンをも凌駕せんとばかり。冗談でなく、こんなアクションを体現できるスターがかつて存在しただろうか?しかも最後には、動きのない表情のアップの演技で涙を誘ってしまう素晴らしい映像俳優でもありながら。歴代最高、最強の映画スター。


ラストシーンのセリフ、「あなたがいるから、私たちは生きていける」。

これはトム・クルーズに私たちファンが思っていること、伝えたいことそのものだ。